オリジナル寓話

第1話:「風の子ホップと、重たい荷物の話」 〜ふく翁の記憶書庫(寓話)〜

jinsei-shippitsu

【1】森に吹く小さな風

森の朝。
ホップはいつものように、落ち葉を蹴ってはしゃいでいた。

ホップ
ホップ

ねえねえ、フクオウじいちゃん!
今日もどっか行こうよ!

フクオウは本を閉じて、にこりと笑う。

フクオウ
フクオウ

ほっほ、ホップや。そんなに急がんでも風は逃げんよ。

すると、その横で腕を組んでいたムアが鼻で笑った。

ムア
ムア

またホップの暴走かよ。
 行くだけ行って、後で困るのはお前だぞ。

ミミは心配そうに耳を下げる。

ミミ
ミミ

ホップ…今日は森の奥、風が強いみたいよ…?

だがホップは元気いっぱい。

ホップ
ホップ

平気平気!ぼく風の子だもん!

【2】重たい袋の男

4人が森の道に出ると、
一人の男が大きな袋を背負って歩いていた。

袋は石のように重そうで、
男は息を切らしながらふらついている。

うう…重い…でも運ばなくちゃ

ホップはすぐに駆け寄った。

ホップ
ホップ

ねえ、おじさん!手伝おうか?

ミミも慌てて後を追う。

ミミ
ミミ

だ、大丈夫ですか…?

しかし、ムアは腕を組んだまま言う。

ムア
ムア

おいホップ。知らない人をすぐ助けるなよ。
どうせ“手伝ってもらうのが当たり前”みたいなやつかもしれない。

ホップはムアを振り返って言い返す。

ホップ
ホップ

そんなふうに決めつけちゃダメだよ!
 困ってたら助ける、それだけだよ!

ムアは肩をすくめる。

ムア
ムア

その“それだけ”で痛い目見るのさ。

【3】フクオウの問い

フクオウはゆっくり男に近づき、優しく声をかけた。

「その袋…何が入っておるんじゃ?」

男は苦しそうに言う。

いえ…これは…
 他の人に頼まれて、ずっと運んでいるんです…
 大事な物らしくて…

ムアは冷ややかに言う。

ムア
ムア

ほら見ろ。“頼まれたから仕方なく”ってやつだ。
 そんなの、断ればいいのに。

ホップは怒る。

ホップ
ホップ

ムア!人には事情があるんだよ!

するとフクオウが、小さなため息をついた。

「ホップや。ムアの言葉も一理あるぞい。」

ホップは驚いて目を丸くする。

「え!?じいちゃんまで!?」

【4】フクオウの魔法

フクオウが男の袋にそっと羽ペンを触れた。

すると——
袋の口がすこし開き、中身が見えた。

それは石でも荷物でもなかった。

たくさんの紙の束。
そこには“他人から言われた言葉”が書かれていた。

「君ならできるよ、任せた!」
「ちょっと持ってってくれない?」
「いや、断られると困るんだよね」
「これ、お前にしか頼めないんだよ」
「あなたのためだから」

ホップもミミも驚く。

ムアだけが、静かに言った。

ムア
ムア

…なるほどね。他人の期待と要求の塊か。

フクオウは優しく言う。

フクオウ
フクオウ

この袋の重さはの、
 “人から背負わされた義務” なんじゃよ。

【5】ホップへの教え

ホップは目を丸くした。

「じゃあ…ぼくが“手伝いたい”って気持ちだけじゃ、
 助けにならないの?」

フクオウは微笑んだ。

フクオウ
フクオウ

助けることは悪いことではない。
じゃがの…“誰のために”助けたいのかを、時々立ち止まって考えることも大事なんじゃ。

ホップはゆっくりうなずく。

ムアは少し笑った。

ムア
ムア

ほらな。考えるのも悪くないだろ?

ホップはむっとするが、少しだけ笑い返した。

【6】ホップが見つけた小さな境界

フクオウがそっと袋を軽くして返すと、男は深く頭を下げた。

…ありがとう。
 知らないうちに、重すぎるものを背負っていました。

帰り道、ホップはぽつりと言った。

ホップ
ホップ

ぼく…人の役に立ちたいけど、
“何でも引き受ける”のとは違うんだね。

フクオウは優しく頭をなでた。

フクオウ
フクオウ

ほっほ。
“やさしさ”はの、時に“断る勇気”とも、隣り合わせじゃよ。

ムアがぼそっと言う。

ムア
ムア

…まあ、たまにはホップも学ぶんだな。

ホップ
ホップ

なんだよそれー!

ミミ
ミミ

ふたりとも仲良くして!!

森に笑い声が広がる。

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