第4話:ふく翁と、言葉をなくした小鳥 〜ふく翁の記憶書庫(寓話)〜
【1】静かな朝の記憶書庫
森の奥。
ふく翁は、ランプを磨いてから、いつものように本棚を歩いていた。
ふいに、扉の向こうで「ぴ…ぴ…」とか細い鳴き声がする。
扉を開けると、小さな小鳥が震えていた。
羽は乱れ、目には迷いの影。
「どうしたんじゃ、ミミズクの子よ」
ふく翁がそっと近づくと、小鳥は声にならない声で鳴いた。
【2】“無理に話させる” という失敗
ホップとミミも声を出せない小鳥がいると聞きつけ駆けつけた。

名前は?どこから来たの?なんで震えてるの?ねえってば!
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だ、大丈夫?何か言える…?
小鳥は余計に震え、ついには羽を固く閉じてしまった。
「……」
ふく翁は二人を制して、静かに首を横に振る。

ほっほ、二人とも“話せぬ時に、言葉を求めてはならぬ”よ。
【3】ふく翁の“聞き方”
ふく翁は小鳥の隣にそっと腰を下ろし、温かい“記憶茶”を淹れた。
そしてただ、
静かに、そっと、
小鳥のそばにいた。
話しかけない。急かさない。
ただ、そこにいることを認識し受け止める。
外が暗くなりランプの光が揺れた頃、
小鳥が初めて、小さな声を絞り出した。
「…こえが…でなくなって、こわくて…」
ふく翁は静かにうなずいた。

ほっほ、それは苦しかったのぅ。
ここにおる間は、声を出さんでもよい。
わしが、そばにおるからの。
すると小鳥の羽が、ほんの少しだけほぐれた。
【4】あたたかさが、言葉を連れ戻す
その晩、小鳥はふく翁のランプの横で眠った。
次の日、ふく翁は本の修復をしながら、小鳥が起きるのを待った。
小鳥は少しだけ声を出した。
「…待ってくれてありがとう。
少しだけお話しできます…」
ふく翁は目を細めた。

言葉は、誰かに無理やり引っ張り出されるものではない。
話したくなったら話せば良いんじゃよ。
近くにいたホップは目を丸くし、ミミは静かに涙を拭った。
【5】三人が学んだこと
外に出ると、ムアが木陰にもたれて言った。
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…太陽みたいだな、ふく翁は
ふく翁は照れくさそうに笑った。

ほっほ、ただお茶を淹れただけじゃよ
ホップが言った。

ねえ、ふく翁じいちゃん!
もし誰かが言葉をなくしたら…どうすればいいの?
ふく翁はランプの灯りを見つめながら答えた。

そばにおるだけでよいのじゃ。言葉を持たぬ時の心は、折れやすく、痛みやすい。
そうして時間がたてば──
自分で、自分の言葉を見つけられるものじゃ。