第3話:ムアと、動けなくなるほど完璧な作戦 〜ふく翁の記憶書庫(寓話)〜
【1】森の昼下がり、三つの影
その日の森は、ひんやりとした風が通っていた。
ミミは落ちた木の実を拾いながら、そわそわと耳を動かし、
ホップは

行こうよ行こうよ!
と跳ね回っている。
少し離れた切り株の上で、ムアが腕を組み、深いため息をついた。

…ほんとうか? この作戦でいいのか?
今日は三人で、森の奥に落ちた“光る実”を探しに行く日だった。
だがムアが作戦を練りすぎて、出発できずにいた。
【2】ムアの“完璧すぎる計画”
ムアは地面に大きな地図を描き、ルートを枝で示した。

まずここで風向きを確認して……
ミミが合図をしたらホップが先行して……
いや、待てよ。もし雨が降ったら——
ホップはしびれを切らした。
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ねぇムア!もう行こうよ!走ればすぐだよ!
ミミは不安そうに耳を下げている。
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で、でも……危険なところなの……?
ムアはさらに地図を描き直し、木の実の落下角度まで計算しはじめた。

……やはり今日はやめた方がいいかもしれん。準備が足りん。
【3】ホップの“勢い作戦”が発動する
するとホップが突然、

行ってくるーーー!!
と叫び、猛ダッシュで森の奥へ走っていった。
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ホ、ホップ!?待ってよ〜!!
ミミも慌てて追いかけ、
ムアは地図を握りしめながら叫んだ。

おい馬鹿者ども!計画が——
しかしムアも結局、
「放っておけん!」と後を追った。
【4】ちぐはぐな三人、森の奥で
森の奥で、先頭を走っているホップは倒木につまずいて泥まみれになっていた。
ミミは心配して泣きそうだ。
ムアはムアで、練りに練った計画が何の役にも立たず苛立っていた。
そのとき、木の上からひらりと“光る実”が落ちてきて、三人の目の前に転がった。
ホップは泥を払いながら笑った。

ほら見つかった!来てよかったじゃん!
ミミは胸をなでおろす。
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う……よかった……
ムアはしばらく黙って考えた後、深く息を吐いた。
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……まったく。計画なんて、走りながらでも立てられるもんだな。
【5】記憶書庫に戻った夜、ふく翁の教え
夜、三人はふく翁の書庫へ報告に来た。
ふく翁はゆっくりと記憶茶を淹れ、ほっほ、と笑った。

ムアよ、作戦は大事じゃがの。
完璧を求めすぎると、一歩目が重たくなるものじゃ。
ムアは少し照れたように鼻をこすった。
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……まあ、今日はホップが役に立ったってことだ。
ホップは胸を張り、ミミはほっと笑顔になった。
ふく翁はランプを軽く磨きながら続ける。

大切なのは三つじゃ。
考える力、動く勇気、支える心。
誰かひとりが全部を持つ必要はない。
三つそろえば、よい旅になる。
三人は顔を見合わせ、照れくさそうに笑った。