第33話:『三人の石工』〜ホップと、見えてしまったもの〜

jinsei-shippitsu

【前置き:『三人の石工(いしく)』とは?】
この物語は、ヨーロッパに古くから伝わる民話・説話の中でも、
とくに広く知られている
「三人の石工」という寓話を参考にしています。

同じ石を削り、
同じ仕事をしている三人。

しかし――
「何をしているのか」と問われたとき、
その答えは、三人それぞれ違っていました。

この寓話は、行動そのものではなく、
その先に何を見ているかによって、
同じ仕事の意味が変わることを語っています。

そしてもう一つ、
大切なことを教えてくれます。

それは、
未来の形が見えている者ほど、
その想いは、今この瞬間には
理解されにくいということです。

『三人の石工』――
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【1】「何か」を作っているホップ

森の朝は、今日もにぎやかだった。

ホップは、まだ誰も起きていないうちから、
木の枝を集め、石を並べ、
「何か」を作っていた。

誰かに言われたわけではないが、
ホップは楽しんでいた。

「これ面白いよ!」
と言って「何か」を作っている。
ホップの手と足は止まらない。

ミミは少し離れたところから、
不安そうに様子を見ていた。

ミミ
ミミ

……ホップ、それ、何を作ってるの?

ホップは手を止めずに答えた。

ホップ
ホップ

うーん、まだ“これ”って言えないんだけどさ。
でもね、ここに道ができて、
あっちとつながったら……

ミミは首をかしげた。

ムアは腕を組み、冷静に言った。

ムア
ムア

目的が決まってない作業は、
効率が悪いと思うが?

ホップは一瞬だけ黙った。

――でも、また動き出した。

【2】見えてしまった景色

それは、
ホップが走り、失敗し、
転び、考え、
また走り続けてきたからこそだった。

木を運んだ経験。
仲間に理解してもらえない経験。
失敗して、傷ついた経験、
一人で、孤独だった経験、
それでもやめなかった時間。

それらが、その瞬間、
ひとつにつながった。

ホップ
ホップ

……あ

ホップの目が、少し遠くを見る。

まだ何も形になっていないのに、
ホップには――
まだそこに存在していない「何か」が
見えてしまった。

ホップは、その景色を
必死に周りに言葉にしようとした。

ホップ
ホップ

ここがさ、ただの道じゃなくて……
もっと、こう……

だが、言葉は途中で止まる。

自分には見えているその「何か」が、
みんなには伝わらない。

誰もホップと、同じ景色・未来が見れない。

【3】現実の重さ

ムア
ムア

ホップ。

ムアが静かに言った。

ムア
ムア

もし何かを作りたいなら、
小さくてもまず“完成形”を示すべきだ。

ミミも続ける。

ミミ
ミミ

うん……
みんな、不安になると思う。
何になるかわからないものを手伝うのは……

ホップは、初めて動きを止めた。

見えている。
でも、今の自分ではまだ作れない。

ホップ
ホップ

(そっか……
ぼくに見えてもみんなは見えないんだ……)

ビジョンを持つことと、
それを現実に落とすことは、
まったく違う。

ホップは自分の見えている「何か」を
伝えられないことが、悔しかった。

【4】それでも、やめない

夕方、森がオレンジ色に染まる頃。

ホップは、悔しそうに笑っていた。

ホップ
ホップ

……今は、無理かもしれないね。

そのときだった。

いつのまにか近くの切り株に、
ふく翁が腰を下ろしていた。

しばらく、何も言わずに
ホップの作りかけの「何か」を
じっと眺めている。

やがて、ふく翁が静かに口を開く。

フクオウ
フクオウ

ほっほ。
ホップには「何か」が見えているのかのう。

ホップは、少し驚いて顔を上げた。

ホップ
ホップ

……うん。でも、
どう作ればいいか、
どうみんなに伝えればいいか、
まだ全然わかんないや。

ふく翁はうなずき、

フクオウ
フクオウ

そうじゃのう。

少し間をおく。

フクオウ
フクオウ

見えた日に、そのすべてを作れる者など、
世界にはおらんよ、ホップ。

それ以上多くは言わなかった。

ホップ悔しいが、
自分に言い聞かせた。

ホップ
ホップ

確かに時間をかけないとできないよね……。
でもさ、いつかちゃんと、
これを“みんなに伝わる形で作れる”ようになりたいんだ。

ホップが作っている「何か」はまだ未完成。

けれど――
見えてしまった夢から、
目を逸らすことはできなかった。

いつか形になるその日まで。

ふく翁−フクオウ−
ふく翁−フクオウ−
〜百歳以上の森の賢者〜
Profile
長年さまざまな動物たちの“人生の話”を聞き、本として残してきた語り部。 物語や人生には語り継ぐべき教訓があると信じている。 信念を同じくする “伝記作家” と出会い、 いまは一緒に「世界中の誰もが自分の歴史を残せるようにする」という取り組みを進めている。
プロフィールを読む
ふく翁から「人生へ7つの問い」プレゼント!

フクオウ
フクオウ

ほっほ。
おぬしの人生から伝えるべき教訓はないかのう?


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※以下は、ヨーロッパに古くから伝わる民話・説話の中で広く知られている、
「三人の石工」を、著者による意訳(現代語訳)として紹介するものです。
原典のストーリーを保持したうえで、読みやすく再構成しています。

【三人の石工】

むかし、ある町で
大きな建物を造る工事が行われていた。

旅人がその現場を通りかかり、
石を削っている男に声をかけた。

「あなたは、何をしているのですか?」

男は顔を上げ、
ぶっきらぼうに答えた。

「見ればわかるだろう。
石を削って、
暮らしのために働いているだけだ。」

旅人は、
少し離れた場所で
同じように石を削っている
別の男にも同じ問いを投げかけた。

男は答えた。

「立派な壁を造っている。
決められた仕事を、
きちんとこなしているのだ。」

さらに進むと、
三人目の石工がいた。

同じ石を削っているはずなのに、
その表情はどこか誇らしげだった。

旅人が同じ問いをすると、
男は空を見上げて、こう答えた。

「私は、大聖堂を造っている。
人々が集い、
祈り、
未来へと残る場所を造っているのだ。」

旅人はその言葉を聞き、
静かにうなずいて、その場を去った。

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