第34話:『ココナッツになった少女』〜ミミと、残された実〜
【前置き:『ココナッツになった少女』とは?】
この物語は、
オセアニアの島々に古くから伝わる
ココナッツの起源を語る神話をもとにしています。
オセアニアの神話には、数多くの物語が残されています。
この神話も、そのひとつです。
この神話が語るのは、
報われる善ではありません。
【1】減っているもの
森の朝は、
いつもと同じように始まった。
小さな生き物たちは
それぞれの居場所へ散っていく。
ホップは前を走り、
ムアは周囲を見渡しながら歩いていた。
ミミは、
その少し後ろ。
足元を見たとき、
ミミは立ち止まった。
――木のみが、落ちていない。
昨日まで、
確かにここには
いくつも転がっていたはずだった。
木を見上げる。
葉は少し枯れていて、
枝も栄養が不足していて細くなっている。
しかし、
そのことに誰も気づいていない。
ミミは小さな不安を感じていた。
【2】誰にも言わずに
それからミミは、
ひとりで森へ通うようになった。
誰にも告げずに。
落ちている実を拾い、
踏まれそうな芽を囲い、
乾きかけた土に水をやり、
葉をかぶせる。
そのおかげで、
少しづつではあるが木から得られる恵みは増えていった。
【3】増えていく実り
日が経つにつれて、
森の様子はどんどん変わっていった。
実は戻り、
やがて前よりも
多くなっていった。

最近、この森、よく実るよね!
ホップはそう言って、
木のみを口にする。
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自然の恵みに感謝だな。
ムアも、
それ以上は考えなかった。
森はもともと、
実りをくれる場所だ。
誰も、
理由を探そうとはしない。
【4】語られないこと
ミミは、
少し離れた場所で
それを見ていた。
自分がやった、
とは言わなかった。
その年、
森はいつも以上に豊かに実った。
誰も困らず、
みんなが笑顔になった。
【5】残された実
ミミは、
森の奥で立ち止まる。
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…………
少しだけ、
疲れている。
その疲れている背中を、
見ている者はいない。
実は、
今日も
豊かに
実っている。


ほっほ。
おぬしの人生を聞かせくれんかのう?
※以下は、オセアニア諸島・ミクロネシア系統の古くから伝わる神話・民話・説話で知られている、
「ココナッツになった少女」を、著者による意訳(現代語訳)として紹介するものです。
原典のストーリーを保持したうえで、読みやすく再構成しています。
『ココナッツになった少女』
むかし、
海と森に囲まれた小さな島に、
ひとりの少女が暮らしていた。
少女は、
特別に強いわけでも、
賢いわけでもなかった。
ただ、
人より少しだけ
先のことを考えてしまう子だった。
雨が降らない日が続くと、
島の人々は空を見上げた。
魚がとれない日があると、
大人たちは言葉を少なくした。
少女はその様子を見て、
胸の奥に、
静かな不安を抱いていた。
ある夜、
少女は夢を見た。
夢の中で、
島の精霊が語りかける。
「この島は、
やがて水と食べ物を失う」
少女は恐れて尋ねた。
「どうすれば、
みんなは生きられるの?」
精霊は、
しばらく黙ったあと、
こう答えた。
「ひとつだけ、道がある。
だがそれは、
おまえが人でなくなる道だ」
目が覚めても、
少女はその言葉を忘れなかった。
少女は怖かった。
本当に怖かった。
少女は、
島の人々の顔を思い浮かべた。
子どもたちの笑顔。
働く大人たちの背中。
黙って耐える姿。
そして、
誰にも告げず、
自分で決断した。
ある朝、
少女は島の中央へ向かった。
そこは、
乾いた土が広がる
何もない場所だった。
少女は空を見上げ、
静かに立ち止まる。
次の瞬間、
少女の身体は土に沈み、
その姿は消えた。
やがてその場所から、
一本の木が芽を出した。
高く伸びる幹。
大きな葉。
硬い殻に包まれた実。
その実の中には、
飲むことのできる水があり、
食べることのできる白い実があった。
人々はそれを
ココナッツと呼んだ。
島は救われた。
水は絶えず、
人々は飢えなかった。
だが、
その木が
ひとりの少女だったことを
語る者は、
次第にいなくなった。
ただ、
島に吹く風だけが、
今もその記憶を
知っているという。
