第15話:ふく翁と、語らなかった正義 〜『鳴かないフクロウ』〜
【前置き:『鳴かないフクロウ』とは?】
中東・アラビア地方に伝わる古い民話に、
「若いフクロウが、なぜ鳴かないのか」 をめぐる寓話があります。
若いフクロウは、周囲から
「なぜ黙っているのか?」
と問われ続けますが、本人は静かに木の上で目を閉じたまま。
『鳴かないフクロウ』──沈黙には沈黙の知恵がある
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【1】森を揺らした、二つの巨体
朝の森が揺れた。
トラとゴリラが、広場で激しく言い争っていたのだ。
トラ:「お前がオレの獲物を横取りした!」
ゴリラ:「勘違いするな、先に見つけたのはこっちだ!」
怒号が飛び交い、周囲の動物たちは息を飲んだ。
ホップは焦ってふく翁に駆け寄る。
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ふく翁じいちゃん!
どうしよう、森がケンカで割れちゃうよ!
ミミは震えながら言う。
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どっちが正しいのか……
わたし、分からない……
ムアも唸った。

ふく翁、あんたならどう判断する?
正義はどっちなんだ?
三人の視線が、賢者ふく翁に集まった。
だが──
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……
ふく翁は何も言わなかった。
【2】沈黙するふく翁
ホップは困惑した顔をした。
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えっ? フクオウじいちゃんなんで黙ってるの!?
早く言わないと、もっとケンカになるよ!
ムアも目を細める。

どうしたんだ……
ふく翁ともあろうものが。
ミミは不安そうに耳を垂らした。
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フクオウおじいさま…?
ふく翁はゆっくり静かに首を振った。

ほっほ……
火の中へ油を注ぐとどうなると思う?
ホップが答える。
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…もっと燃える。
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正義の対立とは、いつも火のようなものじゃよ。
どちらも「自分が正しい」と思っておる。
そこに事情を知らないわしの言葉を足せば──
燃え上がるだけじゃ。
ムアは息を呑んだ。

……だから黙ったのか。
ふく翁は頷き、広場を見つめた。

ほっほ。
“沈黙”はときに、不要な争いを生まない一手なのじゃ。
【3】時間が動き出す
トラもゴリラも怒り疲れ、
次第に声が枯れていった。
ゴリラがぼそりと言う。
「……まあ、どっちが悪いとか、どうでもよくなってきたな。」
トラも鼻を鳴らした。
「ふん。お互い腹が減ってただけだな。もういい。」
二匹は最後にため息をつきながら獲物を分け合い、
あっけなく背を向けて去っていった。
ホップはぽかんと口を開けた。
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え……それだけで終わり!?
ミミは胸を押さえた。
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なんだか、拍子抜け……
でも、よかった……
ムアは腕を組んで感心した。
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なるほど。
“時間”という水が、火を消したわけだ。
ふく翁は静かに笑った。

ほっほっほ……
言葉は便利じゃが、時に争いを深める場合もある。
沈黙とは──
何もせぬことではなく、
“言葉の選択の一つ” じゃよ。
【4】『鳴かないフクロウ』
ある若いフクロウが、一本の木にとまり、
一日じゅう鳴かずに静かにしていました。
他の鳥たちは、
「どうして鳴かないのか?」
「声が出ないのか?」
と次々に問いかけましたが、
フクロウは何も答えませんでした。
数日後、年老いたフクロウが若いフクロウに尋ねました。
「なぜ何も言わないのかね?」
若いフクロウは、静かに目を閉じて言いました。
「言葉は、必要なときにだけ使うものです。
私は──今はまだ、そのときではありません。」
その日から、鳥たちは“沈黙にも知恵がある”と知りました。


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