第37話:『コヨーテと岩』 〜ムアと、動かせなかった山〜
【前置き:『コヨーテと岩』とは?】
この物語は、北米先住民に伝わる寓話
『コヨーテと岩』(Coyote and the Rock)
を参考にしています。
知性を持つ者ほど、
それを「問題」だと感じ、
やがて「敵」にしてしまう――
1.道を塞ぐ山
森の奥へ続く道の先に、
ムアは立ち止まった。
目の前には、
空を押し上げるような大きな山があった。
回り道をすれば、
進めないわけではない。
だがムアは、
その場から動かなかった。

この山さえなければ……
2.善意としての考え
ムアは考え続けた。
山を削ればいい。
道を通せばいい。
そうすれば、
誰も遠回りしなくて済む。

これは合理的だ。
みんなのためになる。
3.ふく翁への相談
ムアは、
記憶書庫にいるふく翁に話した。

この山を動かせば、森はもっと良くなる。
俺やみんなで毎日少しづつ削って動かせば……
ふく翁は、
すぐには答えなかった。
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……
しばらく静かに聞いたあと、
こう言った。
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ムア、その山を動かした先にの、
すでに住んでおる者がおったら、
どうなると思うかの?
4.世界の広さ
ムアは言葉に詰まる。
ふく翁は続けた。

山は道を塞いでおるように見えて、
水をせき止め、
森を守り、
誰かの暮らしを支えておることもある。
さらに、

動かせば、別の場所で不幸が生まれることもある。
世界にはの、
動かせぬものも確かに存在するのじゃよ。
5.それでも残る疑問
ムアは納得できなかった。

なんだよそれ。
じゃあ、何も変えられないのか?
ふく翁は、
首を横に振った。
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動かせない山はある。
じゃが――
6.影響の輪

通り道は、幾つもある。

大切なのは、
自分ができること、影響の範囲を知ることじゃ。
大きな山を動かす力はなくとも、
歩く道を選ぶ力は、
誰にでもある。
7.気づき
ムアは大きな山があった場所に行って
周囲を見た。
今日は他の動物たちもいた。
小さな動物たちは――
山を避け
谷を選び
遠回りしながら
それぞれの道を進んでいた。
誰も、
大きな山を動かそうとしていなかった。
立ち止まり、考え、
消耗していたのは、
ムアだけだったのだ。
8.動かせないもの
ムアは理解する。
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そうか。
山は動かせないが、
道は選べるか。
できないことを無理にやろうとしちまったな。
山は敵ではなかった。
世界や自然も、
自分を邪魔していたわけではなかった。
自分が勝手に動かそうとしているだけだ。


ほっほ。
おぬしの人生も聞かせくれんかのう?
※以下は、北米先住民に伝わる寓話
「コヨーテと岩」を、著者による意訳(現代語訳)として紹介するものです。
原典のストーリー構造を保持したうえで、読みやすく再構成しています。
『コヨーテと岩』
ある日、コヨーテは道を歩いていた。
すると、
行く手に大きな岩があった。
岩は動かず、
道の真ん中に、ただそこにあった。
コヨーテは岩に言った。
「どけ」
岩は何も答えなかった。
コヨーテは腹を立てた。
「聞こえなかったのか?」
岩は動かなかった。
コヨーテは岩を蹴った。
噛みついた。
殴った。
だが岩は、
最初から最後まで、
何もしなかった。
やがてコヨーテは、
足を痛め、
歯を折り、
疲れ果てて倒れた。
岩は――
そのまま、
そこにあるままだった。
