アメリカ大陸の寓話

第18話:ホップと、焦る心 〜『ハクトウワシと小さなウサギ』〜

jinsei-shippitsu

【前置き:『ハクトウワシと小さなウサギ』とは?】

この物語は、北アメリカ先住民に伝わる口承民話、
『小動物とハクトウワシの教え』を参考にしております。

空を飛びたいと願う“小さなウサギ”と、
その心を見抜く“ハクトウワシ”のやりとりを通して、
「力よりも、心の準備が大切である」という教えが語られています。

『ハクトウワシと小さなウサギ』
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【1】焦るホップ、届かない枝

森の昼下がり。
ホップは大きなクルミの木の下で、何度も何度もジャンプしていた。

ホップ
ホップ

くそっ、あと少しなのに!!

いつもなら軽々と登れる枝なのに、今日はまるで手が届かない。

ミミは心配そうに耳を揺らす。

ミミ
ミミ

ホップ、大丈夫…? なんだか焦ってるみたい…

ムアは腕を組んでため息をつく。

ムア
ムア

ホップ、力みすぎだ。
力でどうにかする気でいる時点で、登れないさ。

ホップ
ホップ

わかってるよ! わかってるけど…!

ホップは地面を蹴りつけた。

そのとき――
どこからかランプの小さな灯が揺れて、
静かな声が降りてきた。

フクオウ
フクオウ

ほっほ、ホップよ。今日も元気じゃのう。
焦った心では、風が逃げてしまうぞい。

ふく翁が、枝の上から優しく三人を見下ろしていた。

フクオウ
フクオウ

今日はのう、ちょうどお主に話したい昔語りがあってな。

ふく翁は羽根ペンをゆっくり取り出し、
木漏れ日の中で語り始めた。

【2】『ハクトウワシと小さなウサギ』〜北アメリカ寓話〜

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※以下は北アメリカ先住民に伝わる口承民話の『小動物とハクトウワシの教え』の、著者による意訳(現代語訳)です。
原典のストーリー構造を保持したうえで、読みやすく再構成しています。

『ハクトウワシと小さなウサギ』

むかしむかし、野原に小さなウサギがおりました。
ウサギは力が弱く、高い空を自由に飛び回っている鳥たちに憧れていました。

飛ぶ鳥たちを見て、ウサギは思いました。

「ぼくも空を飛びたい。どうすれば飛べるんだろう?」

ある日、空の王者ハクトウワシがウサギのそばに舞い降りました。

ハクトウワシはウサギに尋ねます。

「なぜそんなに空を見つめているのだ?」

ウサギは胸を張って言いました。

「ぼくは空を飛びたいんだ!
どうすればあんたのように、自由に力強く空を飛べるんだ?」

ワシはしばらく黙ってウサギを見つめ、こう言いました。

「おまえに足りないのは、力ではない。
 “心の準備”だ。」

ウサギは意味がわからない空を見上げ続けました。

空を辛抱強く見ているうちに、鳥たちが風に乗って飛んでいることに気づきます。

ウサギは風を感じようと深呼吸をしてみました。

すると、体の力がふっと抜け、地面を軽く蹴った瞬間、
いつもより高く――まるで跳ねるように空へ近づいたのです。

ウサギは悟りました。
「ああ、焦っていたのは体じゃない。ぼくの心なんだ。」

それからウサギは、風と友達になりました。

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【3】ホップの心に吹く“風”

ふく翁の語りが終わると、
森は少しだけ風を含んだ静けさに包まれた。

ホップは拳を握ったまま、ぽつりとつぶやく。

ホップ
ホップ

……ウサギの気持ち、わかる。
早くできるようになりたくて、焦って、
できない自分にイライラして……

ミミがふんわり微笑む。

ミミ
ミミ

ホップは、もう準備できてるよ。
あとは、心を…落ち着かせるだけだよ。

ムアもうなずく。

ムア
ムア

風を読むってのは、つまり“心の余白”の話だ。
ホップは力があるんだから、焦る必要はない。

ホップは深呼吸した。

――サァァ…
森を渡る風の音が聞こえたような気がした。

ホップ
ホップ

よし、いつもの半分の力でいってみる。

ホップは地面を軽く蹴った。
さっきまで届かなかった枝に――すっと、体が吸い込まれるように近づく。

ホップ
ホップ

……と、届いた!!

ふく翁は目を細めてうなずいた。

フクオウ
フクオウ

ほっほ。
心と力がそろえば、世界はお主を押し上げてくれるものじゃ。

ホップは枝の上で胸を張った。
焦りはもう、どこにもなかった。

フクオウ
フクオウ

ほっほ、急ぎたい者こそ、
まずは静かに深呼吸をするものじゃ。

ふく翁−フクオウ−
ふく翁−フクオウ−
〜百歳以上の森の賢者〜
Profile
長年さまざまな動物たちの“人生の話”を聞き、本として残してきた語り部。 物語や人生には語り継ぐべき教訓があると信じている。 信念を同じくする “伝記作家” と出会い、 いまは一緒に「世界中の誰もが自分の歴史を残せるようにする」という取り組みを進めている。
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