第17話:ミミと、星が降った夜 〜『星の銀貨』〜
【前置き:『星の銀貨とは?】
この物語は、ヨーロッパ・グリム童話『星の銀貨(The Star Money)』 を参考にしています。
主人公の少女が“持っているものをすべて他者に分け与える”と、夜空から星が降り注ぎ、その善行が報われる――という寓話です。
【1】ミミの、胸の奥の小さなつかえ
秋の森。
金色の葉が落ち始め、冷たい風がミミの耳を揺らした。
ミミは、ふく翁の書庫へ向かう途中だった。
今日はなんだか胸がざわざわして、いつもより歩みが遅い。
ホップが振り返る。

ミミ、どうしたの? なんか元気ないよ?
ムアも横目でちらりと見る。

ほんとうか? たしかにいつもより静かだな。
ミミは少し迷ってから、小さく打ち明けた。
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……最近ね、迷っちゃうの。
困ってる人がいたら助けたいって思うけど、
本当にそれでいいのかなって。
ホップとムアは顔を見合わせる。
ミミの優しさは誰よりも深い。
けれど、その優しさが「自分をすり減らしてしまう」ときもあった。
ふく翁の書庫が見えてきた。
【2】ふく翁の話を聞きにいく
ランプの灯りの前で、ふく翁がページをめくっていた。

ほっほ、ミミや。今日は心が曇っておるようじゃの。
ミミは驚く。
ふく翁はミミの耳の揺れ方、歩き方、声の震えで気持ちを察してしまう。
ミミは胸に溜めていた不安を話した。
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わたし… 困ってる人を見たら助けなきゃって思うんですけど……
ちょっと最近……
ミミは罪悪感を抱えているようだった。
ふく翁は静かにお茶を淹れ、香りをミミへ向ける。

ほっほ……ミミよ。
優しさは量ではない。
“分け与える心”そのものが、相手を照らすのじゃ。
そう言うと、ふく翁は一冊の古書を取り出した。

今日はの、ヨーロッパに伝わる古い寓話を読んで聞かせよう。
『星の銀貨』という話じゃ。
【3】『星の銀貨』〜グリム童話〜
※以下はドイツの『グリム童話』の、著者による意訳(現代語訳)です。
原典のストーリー構造を保持したうえで、読みやすく再構成しています。
『星の銀貨』
むかし、すべてを失った一人の少女がいました。
両親は亡くなり、少女の手元には一枚のパンと、着ている服だけ。
少女は森を歩き、道で出会う困っている人に
そのたった一枚のパンを分け与えました。
続いて、寒さに震える子どもに
自分の上着を渡した。
さらに、着ているスカートも、シャツも、
願われるままにすべて差し出しました。
少女はついには裸同然になったが、
そのとき夜空から星々が光となって降り注ぎ、
銀貨へと姿を変えて大地に積もった。
少女は、星が与えたその恵みに包まれ、
もう二度と困ることはなかった――。

【4】ミミの胸に降る、小さな星
ふく翁が語り終えると、
書庫の灯りが静かに揺れた。
ミミは目を丸くする。
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……このお話の少女は、全部をあげても後悔しなかったんだね。
わたしの優しさも、いつか誰かの星になれるのかな…。
ふく翁はほっほ、と優しく笑い、
シワの寄った羽で本を閉じた。

はじめは無理のない範囲でじゃよ。
大切なのは“見返り”ではない。
自分の心が『渡したい』と願うかどうかじゃ。
優しさは世界を巡り、いずれ星のように戻ってくる。
ムアが腕を組む。

つまり、“優しさで損をする”って考え方が間違いってことか。
しかしのぉ……
ふく翁はそこで急に真面目な顔になる。
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ほんの少しではあるが、
優しさや施しを「返さない」人がおるのも事実なんじゃ。
悲しいことじゃがの。
多くの人と関わり、
いろんな経験を積むことで、
その“違い”が見えるようになる。
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世の中には“テイカー”と呼ばれる者たちもおる。
それを聞いて、ホップが首をかしげる。
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“テイカー”?
ふく翁は三人のほうへ体を向け、
ゆっくりと語りかけた。
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優しさというのはの、
“どこに置くか”で光にも影にもなる。
星のように返してくれる者もおれば、
ただ受け取るだけで消えてしまう者もおる。
じゃが――
ミミよ、お主の優しさは“選ぶ力”も育てるんじゃ。
誰にどれだけ渡すか。
その匙加減を学ぶのもまた、よい人生の一部よ。
ミミはハッとした顔で頷いた。
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……そっか。
優しさって、“全部あげる”ことじゃないんだ。
ふく翁は満足そうに目を細めた。

ほっほ、よい理解じゃ。
【5】星がひとつ、落ちてくる
その夜、村の空に小さな流れ星が走った。
ミミは思わず両手を胸に当てる。
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人に優しくなれますように……
夜空は何も言わなかったが、
流れ星はほんの少しだけ、ミミの方へ尾を引いたように見えた。
ふく翁がそっと言う。

ほっほ。
よい人生じゃのう


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