第22話：ホップと、先に動いた足音 〜『ウサギとハイエナ』〜
jinsei-shippitsu
ふく翁の『人生執筆』
第13話：ムアと、揺れながら進む一日 〜『塞翁が馬』〜
jinsei-shippitsu
【前置き：塞翁が馬（さいおうがうま）とは？】
この物語は、中国・前漢時代（紀元前206年〜紀元8年頃）の
思想書『淮南子（えなんじ）』に記された寓話、
『塞翁が馬（さいおうがうま）』を参考にしております。
老人と馬の出来事になぞらえて、
“幸と不幸は表裏一体” というテーマを語る物語です。
『塞翁が馬』――幸も不幸も、いつ変わるか分からない
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【１】森の大作業の日
森の季節が変わるころ、古い木々の大きな枝がいくつも折れかけていた。
そのままでは危険だと、ふく翁の提案で
ホップ、ミミ、ムアの三人は「古枝の整理」をすることになった。
ホップはいつものように目を輝かせる。
はやく行こうよ！ でっかい枝を落とすなんてワクワクするじゃん！
ミミは両耳をしゅんとさげ、不安げに呟いた。
高いところの作業、ちょっと怖いな…
そんな二人を横目に、ムアは木の札に描かれた
緻密な段取り表を差し出す。
今日は風向きも調べてきた。枝の重心も計算済みだ。
この通り進めば、危険は最小限になる。
ほんとムアって準備すごいね！
助かる…
ムアは胸を張った。
合理的で、完璧な作戦。
今日の作業は、自分が中心で動く。そう確信していた。
【２】あっさり崩れる完璧な作戦
しかし森は、ムアの計算どおりには動いてくれなかった。
ホップは元気がありすぎて、
指定したルートではなく “近道” を勝手に進み、
ミミは高いところが怖くて、慎重に慎重を重ねた結果、
作業のテンポが大きくずれる。
さらに、風向きが予測と真逆に変わり、
折れかけた枝が想定と違う角度で揺れた。
ムアは歯を食いしばる。
くそ、、全然計画通りにいかない、、
胸の奥に、小さな敗北感が沈んだ。
完璧な作戦が、たった数分で意味をなさなくなる。
森という世界の前で、自分の知識がとても小さく見えた。
【３】思わぬ“幸運”
ムアが落ち込む中、
ホップとミミは別のやり方で枝を落とす作業に成功した。
ほら見てムア！枝、落とせたよ！
ムアが危ない枝を先に見つけてくれたおかげでさ！
段取り表のおかげで、必要な道具は全部そろってたの…
ほんとに役に立ったよ、ムア…
ムアは思わず耳をぴくりと動かした。
皮肉でも、慰めでもない。
心からの感謝が向けられているのが分かったからだ。
……結果オーライだな。
【４】大きな枝が落ちる事故
その瞬間だった。
突然の突風が、森を走り抜けた。
バキィッ——！
ムアの真上にあった、
大きな枯れ枝が予想外の方向へ傾く。
っ……！
とっさに跳ねのいたが、
足場が悪く、右足をひねってしまった。
ムアーーっ！！
大丈夫！？ 今、ふく翁じいちゃん呼んでくる！
ムアは痛む足を押さえながら、
（くそっ、、！
作戦が崩れたせいだ、、！）
と胸の中で自分を責めていた。
そして足の治療のために担当していた作業場を離れた。
【５】“怪我”がもたらしたこと
ホップがふく翁を呼びに行き、数分後。
ふく翁がランプを揺らしながら降り立った。
その直後だった。
ドォォンッ！！
ムアが担当していた作業位置へ、
さらに巨大な枝が落下した。
ひっ…！？
さ、さっきのムアが担当していた場所…！
もしそこにいたら…！
ふく翁は静かに頷く。
ムアや。
お主が足をくじいておらなんだら…
今の巨大な枝が頭に当たっておったじゃろうな。
ムアは自分の足元を見る。
踏みしめた土の温度が、急に重たく感じた。
…………。
胸の奥でズシっとした安堵が広がっていった。
【６】ふく翁が語る『塞翁が馬』
作業が終わった夕方ごろ、
ふく翁は三人を集め、ランプの灯りを揺らしながら昔語りを始めた。
ほっほ…。
今日の出来事はのう、“塞翁が馬”という古い言葉を思い出させる。
幸も不幸も、決まるのは後からなのじゃ。
そしてふく翁は、
「塞翁が馬」をそっと読み聞かせた。
『塞翁が馬』
ある老人が、北の国境に住んでいました。
ある日、その家の馬が突然逃げてしまった。
人々が「災難ですね」と慰めに来ると、老人は言った。
「何が幸いするか、まだ分からんよ」
しばらくして、その馬は白い良い馬を連れて帰ってきた。
人々が「良かったですね」と祝うと、老人は言った。
「何が禍（わざわい）となるか、まだ分からんよ」
やがて老人の息子がその良馬に乗って落ち、足の骨を折ってしまった。
人々が「お気の毒に」と言うと、老人はまた言った。
「これがどう転ぶか、まだ分からんよ」
その後、国に戦争が起き、
若者たちはみな兵役に取られ、命を落とした。
しかし、足を折っていた老人の息子だけは徴兵を免れ、無事であった。
