第19話:フクオウと、3年の沈黙 〜『三年寝太郎』より〜
【前置き:『三年寝太郎』とは?】
この物語は、日本民話の
『三年寝太郎』を参考にしております。
3年間寝てばかりいた怠け者の若者が、ある時目覚めて村の干ばつを救う――
見かけによらず知恵と行動力があることを示す物語です。
【1】森のざわめきと、沈黙するフクオウ
夏の終わり、森に乾いた風が吹きはじめた。
川の流れは次第に細くなり、小動物たちは不安そうに騒ぎだした。
ホップ・ミミ・ムアの三人は慌てて、ふく翁の記憶書庫へ駆け込んだ。
――バタンッ!
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ふくおうじいちゃん!大変なんだよ!!
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お、おじいさま……このままじゃ冬の水が……

じいさん、森の水源が止まればみんな飢えるぞ。
だが、そこで見たのは――
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……
大きなクスノキの根元で深く目を閉じ、
じっと動かないふく翁の姿。

おい、ふく翁のじいさん……こんな時に“熟睡”か?
ムアは呆れたように腕を組む。
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ね、寝てる場合じゃないよ! じいちゃん!
ホップも枝を揺すり、声をかける。
しかし、フクオウは目を開けず、
ただ静かな呼吸だけが聞こえた。
ミミは耳を垂らし、心細くつぶやく。
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……大丈夫なのかな…
森の動物たちも噂し始める。
「森の賢者も年だな」
「判断できなくなったんじゃないか?」
「こんなときに役に立たないとは……」
三人は胸の奥に小さな失望を抱えたまま、森へ戻った。
【2】森が限界に近づいた日
日が経つにつれ、状況は悪くなるばかりだった。
北の山の水門が泥で詰まり、
ついには完全に閉まりかけてしまったのだ。
「水の流れが止まる!」
「こ、これじゃ森の水が……!」
「ふく翁はまだ寝ているのか!?」
焦りと不安と恐怖が森の動物たちを飲み込みこんだ。
そのとき――
ふわり、と一陣の強い風が吹いた。
風に乗って、
ふく翁がゆっくりと空から降りてきた。
その瞳は、深く澄んだまま。
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……時が満ちたようじゃ
長い沈黙を破り、
古い水門の岩に残された“ひとつの細い割れ目”へ飛んでいった。
そしてふく翁はその一点を、
迷いなくクチバシでつついた。
ガララッ――ッ‼
岩は安全な方向へ崩れ、
止まりかけていた水が、一気に森へ流れはじめた。
ホップは息を飲む。
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…じいちゃん、全部わかってたの?
ミミは涙を浮かべ、ムアは小さくうなずいた。

騒ぐ俺たちを、見ていたんだな……
フクオウは静かに言った。

ほっほ。長い間心配かけてすまんのぉ。
じゃがわしは寝ておったわけではないのじゃよ。
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森の息づかい、水の音、土の乾きを観察し、“いつ動くべきか”の「判断」を見極めておったのじゃ
【3】ふく翁が語る日本昔話『三年寝太郎』
三人が耳を澄ませると、
ふく翁は静かに昔話を読み聞かせはじめた。

ほっほ……日本という国にもな、
三年のあいだ寝てばかりと笑われた青年がおった。
じゃがのう、怠けていたのではない。
村を救う“大仕事の時”を、ただ静かに待っておったのじゃ。
成果を出すまでの「準備」は他の人には見えぬものよ。
『三年寝太郎』
むかし、ある村に、働きもせず三年ものあいだ寝てばかりの若者がいた。
人々は彼を怠け者と笑い、「役立たずの寝太郎」と呼んでいた。
ある年、村は長い日照りに見舞われ、水が枯れ、田畑は干上がってしまった。
村人が困り果てていると、寝太郎がふいに起き上がり、言った。
「大きな仕事をするから、鎖を貸してくれ」
半信半疑ながらも鎖を渡すと、寝太郎は山へ登り、
巨大な岩に鎖を巻きつけ、思い切り引いた。
すると岩は谷へ転がり落ち、
その跡に水が流れこむ水路ができた。
山の上の溜池の水が村へ届き、田畑は再び潤った。
村人たちは驚き、
寝太郎が三年間寝ていたのは怠けていたのではなく、
村を救うための最善の時を待ち、力を蓄えていたのだ
と知った。
それから村人は、寝太郎を“恩人”として敬うようになったという。
【4】熟成する知恵は時を味方につける
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早く動く者が偉いわけではなく、
静かに待つ者が怠け者とは限らない。
逆もまた然りじゃ。
大切なのは、自分にとっての「動くべき瞬間」を知り、行動すること。
ホップは拳を握り、
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ぼくも……走るだけじゃなくて、その時を「考えれる」ようになりたい!

ほっほ。ホップや、走りながら考えても良いのじゃよ。
誰よりも早く走り出せるのはおぬしの強みじゃ。
ミミは安心したように微笑み、
ムアはゆっくりとうなずいた。
フクオウは森の夕暮れを眺めながら、
そっと三人にランプを向けた。
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ほっほ……
知恵とは、急ぐことより、「時を聴き行動する」、心と体を持つことじゃよ。


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