第27話:ふく翁と、割れた水壺 〜オリジナル寓話〜
【前置き:『割れた水壺)』とは?】
この物語は世界の寓話を参考にしたオリジナル寓話です。
公平を“形”にしようとした瞬間、
それまで保たれていた関係が壊れる。
善悪ではなく、
生きるための正しさが、心を壊す瞬間を描く寓話です。
「公平に分けよう」
それは正しい。
だが――
【1】水壺を抱えた動物たち
干ばつの年だった。
普段信頼し合っていた動物たちに、
飢餓の恐怖が蔓延していた。
森の泉は細くなり、
大きな水壺が一つだけ残った。
動物たちは、
その水壺を抱えて
ふく翁の周りに集まった。
「ふく翁さん、この壺に線を引いてくれ!
自分たちで引くと誤魔化す奴が出てくるかも知れない!」
声は必死だった。
ふく翁は初めは線を引く事を断ったが、
「誰がどれだけ飲むのか」
「昨日多く飲んだ者がいる」
「弱い者を優先すべきだ」
争いが起きそうだったので、
一時的に引き受けた。
そしてふく翁は、黙って水壺に触れた。
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・・・
【2】公平な線
ふく翁はみんなにせがまれるように、
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では、等しく分けようか。
水壺に、一本の線を引いた。
同じ高さ。
同じ量。
誰もが納得したように見えた。
だが――
最初の一匹が飲み終えたとき、
誰かが言った。
「少し多く飲み過ぎじゃないか?」
次に別の声。
「喉の乾きは同じじゃない」
平等に引いた線は、一気に意味を失った。
【3】割れた水壺
議論が激しくなった、その時。
誰かが水壺を引き寄せ、
別の誰かが止めた。
パリンッ――
乾いた音が森に響いた。
水壺は割れ、
水は地面に吸い込まれていった。
誰のものでもなく。
【4】ふく翁が拾ったもの
沈黙。
ふく翁は、
割れた壺の欠片を一つ拾い、言った。
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この水壺は、分ける前から、
もう壊れておったのかもしれん。
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信じ合っていた時代には、
壺の線は要らなかったのにのう。
誰も、言い返せなかった。
4|ふく翁の教訓
ふく翁は、静かに語る。
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公平は、正しさではある。
だが、信頼の代わりにはならぬのじゃ。
信頼があるうちは、壺の線はいらぬ。
線が必要になった時は、
すでに何かが欠けておるのかも知れぬな。


ほっほ。
おぬしの人生も聞かせてくれんか?

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