インド寓話

第31話:ムアと、楽な道 〜『友を信じたウサギと二匹のジャッカル』〜

jinsei-shippitsu

【前置き:『友を信じたウサギと二匹のジャッカル』とは?】
この物語は、古代インドの寓話集パンチャタントラの
『友を信じたウサギと二匹のジャッカル』 を参考にしています。

ウサギが治める国の王であるウサギが、二匹の友であるジャッカルに
国の行く末について相談します。

二匹のジャッカルは、
それぞれもっともらしい助言を行います。

王であるウサギが選んだのは――

『友を信じたウサギと二匹のジャッカル』
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【1】森の貯蔵庫

秋の終わり。
森の中央にある古い貯蔵庫の前で、
ホップとムアは向き合っていた。

中には、木の実や乾草、
冬を越すための食べ物が積まれている。

ホップ
ホップ

こんなにあるなら、もう十分でしょ!
今年は雪も少ないって聞いたよ!

ホップは、集めた木のみ袋を肩に担ぎ直し、
軽く跳ねた。

ムアも、一緒に集めた食料を見つめたまま答える。

ムア
ムア

「十分」に見えるのは、いまだけだ。
もっと集めよう。

ホップ
ホップ

ええー、でも集めるのが一番きつい作業じゃん。
かなり集めたし、すごい頑張ったよ。
ここで無理する必要ある?

【2】ホップとムアの意見

ムア
ムア

きついのは分かってる。
でもな、ホップ。
「きつい作業」をやらないと、
だいたいあとで後悔する。

ホップは一瞬、言葉に詰まった。

ホップ
ホップ

でもさ……
未来のことなんて、
どうなるか分からないじゃん。

ホップ
ホップ

今年は雪も少ないって言ってたし、
もし余ったら、今の苦労って全部ムダになるかもしれないよ?

【3】冬の真ん中

ムアは、貯蔵庫の奥を見た。
整然と並べられた食料の向こうに、
まだ空いている棚が見える。

ムア
ムア

ムダになるかどうかは、
冬が終わらないと分からない。

ムア
ムア

でも、
足りなくなるのは――
冬の真ん中だ。

ホップは、唇をかんだ。
ムアの言っていることは、分かる。
分かるけれど――

【4】刺さった言葉

ホップ
ホップ

……ムアってさ、
いつも「もしも」の話ばっかりだよね。

ホップ
ホップ

今を生きてない感じ、するんだよ。

その言葉は、
ムアの胸に小さく刺さった。

ムア
ムア

俺は……
今を捨ててるわけじゃない。

ムア
ムア

今の延長に、
冬が来るだけだ。

二人の間に、
短い沈黙が落ちる。

【5】ふく翁の影

そのとき――
貯蔵庫の扉の影が、
ゆっくりと伸びた。

フクオウ
フクオウ

ほっほ……
随分と真剣な顔をしておるのう。

振り向くと、
そこにふく翁が立っていた。

紫色の古書を胸に抱え、
丸メガネの奥から、
二人を交互に見つめている。

フクオウ
フクオウ

集めるか、やめるか。
進むか、立ち止まるか。
秋には、よくある迷いじゃ。

【6】語られる昔の王

ホップは、
少し気まずそうに視線をそらした。

ホップ
ホップ

ふくおうじいちゃん、こんなに集めたなら、
もう十分だと思わない?

ふく翁は、すぐには答えず、
古書をそっと開いた。

フクオウ
フクオウ

ではの……
こんな話を、一つ。

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※以下は、古代インドの寓話集パンチャタントラの
『友を信じたウサギと二匹のジャッカル』の著者による意訳(現代語訳)です。
原典のストーリー構造を保持したうえで、読みやすく再構成しています。

『友を信じたウサギと二匹のジャッカル』

むかし、ある国に
ウサギの王がいた。

王は、国の未来の備えについて悩み、
二匹の友であるジャッカルに相談した。

一匹は言った。
「今は苦しくとも、
蓄えを続けねばなりません。
民は不満を口にするでしょうが、
冬は必ず来ます。」

もう一匹は言った。
「心配はいりません。
いま蓄えを使えば、
民は喜び、王を称えるでしょう。
楽になる道を選びましょう。」

王は民が喜ぶ助言を選んだ。

王がその言葉を告げると、
民は歓声を上げた。

食料は分け与えられ、
市はにぎわい、
王の評判も高まった。

王の命令は通りやすくなり、
国はしばらくの間、
かつてないほど穏やかに見えた。

だが――
使われた蓄えは、戻らなかった。

冬が深まるにつれ、
貯蔵庫は空になり、
民の声は次第に不安へと変わった。

その頃には、
備えを続けよと進言したジャッカルは
王のそばにはいなかった。

「不吉なことを言う者」として
遠ざけられていたからである。

やがて国は、
冬を越えることができなかった。

王のそばに残っていたのは、
心地よい言葉だけだった。

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【7】いま助かる言葉、未来に届く言葉

ふく翁は、本を閉じた。

フクオウ
フクオウ

この話の肝はの、
「王が愚かだった」ことではない。

フクオウ
フクオウ

楽になる判断は、
いつも“いま”を助けてくれる。
だが――

続けてふく翁は言う。

フクオウ
フクオウ

未来まで助けてくれるとは、
限らんのじゃ。

【8】立ち止まった足

ホップは、

ホップ
ホップ

……今、やめたら、冬の途中で
「なんであの時」って思うかもしれないね。

ゆっくりと、
袋を床に下ろす。

ホップ
ホップ

もう少しだけ、
集めようか。

【9】確信

ムアは、
静かに言った。

ムア
ムア

……ありがとよ。
ふく翁のじいさん。

自分の判断が、
昔から語られてきた知恵と
つながった気がした。

フクオウ
フクオウ

ほっほ。
未来がよくなる努力はの、
たいてい“今が大変”で、わかってもらえないものなんじゃ。

貯蔵庫の奥で、
空いていた棚が、
少しずつ埋まり始めていた。

ふく翁−フクオウ−
ふく翁−フクオウ−
〜百歳以上の森の賢者〜
Profile
長年さまざまな動物たちの“人生の話”を聞き、本として残してきた語り部。 物語や人生には語り継ぐべき教訓があると信じている。 信念を同じくする “伝記作家” と出会い、 いまは一緒に「世界中の誰もが自分の歴史を残せるようにする」という取り組みを進めている。
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フクオウ
フクオウ

ほっほ。
おぬしの人生も聞かせてくれんか?

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