第29話:ホップと、ズルの見返り 〜『なぜカメの甲羅は割れているのか』〜

jinsei-shippitsu

【前置き:『なぜカメの甲羅は割れているのか』とは?】
この物語はアフリカに古くから伝わる民話
『なぜカメの甲羅は割れているのか』 を参考にしています。

この民話が語るのは、
「ズルをした者が罰せられる話」ではありません。

ズルをした結果、
最後には――

『なぜカメの甲羅は割れているのか』
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1|めんどくさい朝

森の朝は、にぎやかだった。

落ち葉集めの日。
森のみんなで力を合わせて、
冬支度をする大切な仕事だ。

ホップは、山のような落ち葉を見て、
ため息をついた。

ホップ
ホップ

うわぁ……
これ、全部やるの?
めんどくさ……

ミミは丁寧に葉を集めながら言う。

ミミ
ミミ

少しずつやれば、すぐ終わるよ。
みんなでやるんだし。

ムアは腕を組んだ。

ムア
ムア

手順を守れば、無駄は出ない。
みんなで綺麗にしよう。

ホップは聞いていなかった。

「めんどくさい」
「早く終わらせたい」

2|ホップのズル

ホップは考えた。

「みんなと一緒にやるから、遅いんだ」
「ぼくの分だけ一気にやっちゃえばいい」

ホップは、
みんなが目を離したすきに、
自分の分の落ち葉を、他の山にこっそり混ぜた。

ホップ
ホップ

よし!
これでぼくの分は終わり!

ホップは勝ち誇った。

でも――
ミミが、最初に気づいた。

ミミ
ミミ

……あれ?
ホップ君の山、少なくない?

ムアの目が、細くなる。

ムア
ムア

ホップ……
そういうやり方か。

誰もホップを怒ったりしなかったが、
ホップがズルをしたことはみんなに知れ渡った。

3|ふく翁の書庫

その夜。

ホップは、ふく翁の記憶書庫に来ていた。
落ち着かない様子で、しっぽを揺らす。

ホップ
ホップ

ねえ、ふくおうじいちゃん。
ズルってさ……
そんなに悪いことかな?

ホップは今日あったことをふく翁に話した。
確かにズルだったかも知れないが、自分の分は誰よりも先に終わらせた。

ふく翁は、ランプを磨く手を止めた。

フクオウ
フクオウ

ほっほ。なるほどのう。
ホップや、一つ昔話を聞かせよう。


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※以下は、アフリカ民話の
『なぜカメの甲羅は割れているのか』の著者による意訳(現代語訳)です。
原典のストーリー構造を保持したうえで、読みやすく再構成しています。

『なぜカメの甲羅は割れているのか』

むかしむかし、カメの甲羅は
今のように割れていなかった。
つるりとした、なめらかな甲羅だった。

カメは足が遅く、力も弱いが、
知恵と口のうまさだけはあった。

ある日、空の世界で
神さまたちの大きな宴が開かれることになった。

鳥たちは招待され、
空へ空へと飛んでいく。

それを地上から見ていたカメは思う。

「いいなあ。あんなごちそう、食べてみたい」

カメは鳥たちに言う。

「みんなで名前を一つにしないか?
そうすれば、宴の食べ物は争わずに“みんなのもの”になるだろう?」

鳥たちは感心してうなずき、
全員が 「みんな」 という名前を名乗る。

カメはさらに言う。

「では私も“みんな”という名前で行こう」

鳥たちはカメに感謝し、
カメを背中に乗せ、空へ連れていった。

宴が始まると、神さまたちは言う。

「さあ、みんな、食べなさい」

その瞬間、カメは立ち上がり、こう言った。

「ありがとうございます。
私の名前は“みんな”です」

そう言って、
ごちそうを一人で食べてしまった。

鳥たちは怒り、悲しみ、
次々にカメを置いて地上へ帰ってしまった。

宴が終わり、
空に取り残されたカメは困った。

仕方なく、
地上にいる家族に叫ぶ。

「下に布を広げてくれ!
私が落ちても大丈夫なように!」

だが地上では、
カメの妻も怒っていた。

「ずるいことをした罰だ」と言って、
布ではなく固いものを広げた。

カメは空から落ちた。

ドン。

その衝撃で、
甲羅はバラバラに割れてしまった。

神さまたちは、
割れた甲羅を元に戻してやったが、
ひび割れは消えなかった。

それ以来、
カメの甲羅には
今のような割れ目模様が残っている。

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4|まだ分からないホップ

話を聞き終えても、
ホップは首をかしげた。

ホップ
ホップ

でもさ。
カメはズルして、ごちそう食べたんでしょ?
それって、得じゃん。

ふく翁は、すぐには答えなかった。

フクオウ
フクオウ

ほっほ。
そう見えるかのう。

5|誰もいない朝

翌朝。

ホップは、森の広場に向かった。
昨日の続きをやろうと思ったのだ。

だが――

誰もいなかった。

ミミはいない。
ムアもいない。
他の動物たちも。

置き手紙が一枚。

「今日は、別の場所で作業します。
昨日ズルした分は自分でやって下さい。」

ホップは、昨日より多い落ち葉の山を見た。

ホップ
ホップ

……あ。

そのとき、
ふく翁の話が、胸の奥でつながった。

ズルをした瞬間、
確かに楽だったかもしれない。

でも――
ズルをした後、誰もいなくなった。

ホップは、
自分が“空に取り残されたカメ”だったことに気づいた。

7|ふく翁の応援

その時、
ホップの頭上にふく翁が降りてきた。

フクオウ
フクオウ

ほっほ。
ホップや、今日は一人じゃのう。

ホップ
ホップ

……じいちゃん、わかった。
ズルするとさ、最後、ひとりになるんだね。

ふく翁は、ゆっくりとうなずいた。

フクオウ
フクオウ

ほっほ。
周りをだますズルはな、目先は楽になるが――
実は、自分の足場を壊すことになんじゃ。

ホップは、自分の分の仕事を他の人に押し付けたことを
深く後悔した。

ホップ
ホップ

ご、ごめんよ……

ホップはみんなのところにいき謝罪した。
そして昨日のズルの分、多くの落ち葉を片付けることになった。

ふく翁−フクオウ−
ふく翁−フクオウ−
〜百歳以上の森の賢者〜
Profile
長年さまざまな動物たちの“人生の話”を聞き、本として残してきた語り部。 物語や人生には語り継ぐべき教訓があると信じている。 信念を同じくする “伝記作家” と出会い、 いまは一緒に「世界中の誰もが自分の歴史を残せるようにする」という取り組みを進めている。
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フクオウ
フクオウ

ほっほ。
おぬしの人生も聞かせてくれんか?

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