第22話:ホップと、先に動いた足音 〜『ウサギとハイエナ』〜

jinsei-shippitsu

【前置き:『ウサギとハイエナ』とは?】

この物語は、東アフリカから南部アフリカにかけて語り継がれる寓話
『ウサギとハイエナ』を参考にしています。

力の強いハイエナと、体の小さなウサギ。
勝負を決めるのは力ではなく、先に動く判断と工夫でした。

『ウサギとハイエナ』』
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【1】乾いた森と、止まった空気

昼下がりの森。
水場のまわりで、動物たちが立ち止まっていた。

「この水場では、体の大きさ順に飲む。」

そう言って、体の大きな動物たちが、ルールを決めて道をふさいでいる。

ホップは列の後ろで小さく首をかしげた。

ホップ
ホップ

ねえ、いつまで待つの?

ミミは周りを見て、声を落とす。

ミミ
ミミ

でも……そういうルールだし……
逆らえないよ…

ムアは腕を組んだ。

ムア
ムア

…フン。
体のでかい奴らが自分に有利なルールを作ってるだけだ。
力が強いやつらがルールを決めてる。

合理的に考えれば、待つしかない。

ホップ
ホップ

それじゃぼくの番が全然こないよ!!

空気は重く、時間だけが過ぎていった。

【2】ホップ、動く

ホップ
ホップ

じゃあ、ぼく行く。

ホップはそう言って、列の外へ走り出した。

誰も使っていない、細い獣道。
木の根の陰、小さな溝、跳び石。

ミミ
ミミ

待って!

とミミが声を上げる。

ムア
ムア

おい、ホップ!
危険だぞ!

ムアが止める。

ホップは振り返らない。
足音だけが、森に軽く響いた。

やがて——

別の小さな水たまりにたどり着く。

体は転んだ跡や擦り傷だらけだが、
ホップは笑顔だ。

ホップ
ホップ

ここ、まだ水残ってるよ!!

【3】場が動く

最初にミミが続き、
次にムアが静かに確認する。

ムア
ムア

あ……
この道確かに、通れるな。
……なんで通れないと決めつけてたんだ。

ホップが新しい水場を見つけたことは森に知れ渡り、
小さい動物たちはそれぞれ別の道を探し始めた。

気づけば列は崩れ、水場を独占していた体の大きな動物たちは、
ただその場で立ち尽くす。

ふく翁は遠くから、その様子を見ていた。

フクオウ
フクオウ

ほっほ。
新しい道を切り拓いたのう、ホップや。

【4】その日の夕方、記憶書庫で

ミミが言った。

ミミ
ミミ

新しい獣道…
怖かったけど……止まらなくてよかった。

ムアは頷く。

ムア
ムア

ああ。
ホップの判断が早かった。
正しいかどうかより、“先に動いた”のが効いたな。

ホップは少し照れながら、

ホップ
ホップ

うん。
考えてたらたぶん……

怖くて行けなかったかも。

ふく翁は紫の古書を閉じ、静かに言う。

フクオウ
フクオウ

急ぐことが、正しいとは限らぬ。
考えて動くことも大切じゃ。

だが、誰かが最初に動かねば、
場は一生、止まったままじゃ。

ランプの灯りが、ページをやさしく照らした。

ふく翁−フクオウ−
ふく翁−フクオウ−
〜百歳以上の森の賢者〜
Profile
長年さまざまな動物たちの“人生の話”を聞き、本として残してきた語り部。 物語や人生には語り継ぐべき教訓があると信じている。 信念を同じくする “伝記作家” と出会い、 いまは一緒に「世界中の誰もが自分の歴史を残せるようにする」という取り組みを進めている。
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※以下は、東アフリカ〜南部アフリカに広く伝わるRabbit and Hyena 型寓話・口承民話の、著者による意訳(現代語訳)再話です。
原典のストーリー構造を保持したうえで、読みやすく再構成しています。

『ウサギとハイエナ』

むかし、乾いた季節の森に、
多くの動物たちが暮らしていた。

ある日、食べ物と水が乏しくなり、
動物たちは一つの水場に集まった。

そこには体の大きなハイエナがいて、
こう言った。

「この水は、力のある者から使う。
 小さな者は、後でよい。」

動物たちは逆らえず、
ただ順番を待つしかなかった。

そこへ、小さなウサギがやって来た。
ウサギは列を見て、しばらく考えたあと、
何も言わずにその場を離れた。

ウサギは森の中を走り回り、
細い道や、誰も使わない獣道を探した。

やがて、岩の陰に小さな水たまりを見つける。
量は少ないが、飲めないほどではなかった。

ウサギは仲間たちを呼び、
その水を分け合った。

それを見て、他の動物たちも気づいた。
「ここ以外にも、道はあるのだ」と。

動物たちは一匹、また一匹と列を離れ、
それぞれ別の水場を探し始めた。

気づけば、
ハイエナの前には誰もいなくなっていた。

ハイエナは力を持っていたが、
その力を使う相手も、
守るべき順番も、
もう残っていなかった。

こうして森では、
「力よりも、先に動いた者が道を見つける」
ということが語り継がれるようになった。

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